“人はミスをする”が前提

どんなに気をつけていても、人はミスをする。
ミスを予防するための努力の多少にかかわらず、外的要因、まさに運としか表現しようのない要因によっても起きる。
だから、ガイドやダイバーは常にミスを犯す可能性があることを前提として、事故のリスクに備えておくことが必要があるのだ。

実際に事故が発生した場合、法律に基づいて裁判で紛争解決がなされるが、事故が起きた以上、“たられば”で考えれば、事故のどこかに人為的なミスがあることがほとんどであろう。
ただし、ミスのすべてが法的な意味の賠償義務がある過失になるわけではなく、どの範囲が賠償義務がある過失に当てはまるかは法的な価値判断となる。
まずは、個々のガイドたちがファンダイビングのガイドに関わる法的責任について理解することが重要だ。
そして、ガイド側にあらかじめ根拠あるルールやガイドラインがあり、コンセンサスがあれば、紛争時の法的な価値判断に及ぼす影響も小さくないといえるだろう。

知っておきたいガイドの法的責任の種類

ダイビング事故が発生すれば、法的責任が生じることもある。
法的責任は、刑事上の責任と民事上の損害賠償責任とがある。
これらの責任はガイドらに、故意・過失という注意義務違反が認められた場合に発生する。

(1)刑事上の責任

刑事責任は、懲役や禁固、罰金などの制裁を受けなければいけない責任。
刑事上の責任を負うことは、前科がつくことになることから、極めて重い責任といえる。
ダイビング事故で問題になるのは、業務上過 失致死傷罪(刑法211 条1項)。
過失により引 率していた受講生やダイバーが怪我を負う、死亡した場合に成立する。
法定刑は5年以下の懲役(刑務所に収容され、刑務作業が科される刑 罰 刑法12条)、禁固(刑務所に収容される 刑罰 刑法13条)、100万円以下の罰金。
なお、略式裁判の場合には、罰金刑が科せられ、正式裁判のケースでは責任が認められれば 懲役もしくは禁固が科されるが、執行猶予が付されることが多い。

(2)民事上の責任

ガイドに故意・過失が認められた場合、債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(民 法709条)が成立し、損害賠償責任を負うことになる。
ガイドらについては、賠償責任保険 に加入していることが大半であると思われるが、民事上の責任が認められる場合、保険で賠償責任が担保されることとなる。

民事上の責任について

ダイビング事故で最も頻繁に問題になる責任は民事上の責任。
民事上の責任の根拠としては、「不法行為責任」と「債務不履行責任」がある。

(1)不法行為責任(民法 709 条 ※3)

不法行為責任とは、契約関係がない者同士で事故が発生したときに問題となる。
一般的に想定されるのは交通事故(被害者と 加害者には、通常、契約関係はない)だが、ダイビング事故においては、ダイバーはショップとツアー契約や講習契約を締結しているだけで、ガイドやインストラクターとは契約関係を締結 していないので、ダイバーがガイドやインストラクターの責任を追及する場合は不法行為責任となる。

都市型ショップがリゾートでダイビングツアーを行い、現地ダイビングサービスがガイドなどを行って事故が発生した場合にも、ダイバーと現地ダイビングサービスとの間には契約関係はないので、この場合にも現地ダイビングサービスの責任を追及する場合には不法行為責任を追及することになる。

なお、ガイドやインストラクターに不法行為責任が成立することを前提に、ショップやそのショップの代表者は使用者責任(民法715条※4)が認められることになる。

※3:民法709条(不法行為による損害賠償)  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益 を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を 負う。
※4:民法715条(使用者等の責任) ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の 執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。た だし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相 当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべ きであったときは、この限りでない。

【不法行為責任の成立要件】

不法行為責任が成立するためには、次のような要件を満たす必要がある。

  • 故意・過失
    「故意」とは「わざと」という意味。「過失」とは、「損害発生の予見可能性があるにもかか わらず予見義務を怠り、結果、発生を回避する可能性があるにもかかわらず、結果回避義務を怠ったこと」をいう。
    交通事故の例でいえば、幼稚園や小学校の近くを走行する場合には、子どもが飛び出してくる予見ができる。そのため、ドライバーは子どもが飛び出してきて衝突する可能性を予見して、その子どもとの衝突を回避するために、スピー ドを落とすという結果回避義務をとる必要がある。この予見義務、回避義務を怠り、漫然と走行して交通事故を起こしたとき、責任が発生する。 一方、例えば、高速道路では、通常、歩行者が付近にいることは予見できないので、何らかの事情で人が高速道路に入り込んでしまって事故になると、「予見可能性がない」ということになる。予見可能性がなければ、結果回避可能性もなくなるので、責任は負わないことになる。 したがって、損害賠償責任が争われる場合には、「予見可能性」と「回避可能性」が重要な問題 になってくる。
  • 損害の発生
    損害が発生することが必要。損害が発生して いなければ賠償責任は発生しない。
  • 因果関係
    損害が発生しても、それが故意・過失との間に因果関係が認められる必要がある。故意・過失がなくても生じた結果であれば、責任を問うことができないからだ。ダイビング事故では、内因性の原因(例えば、持病など)により事故 者に異変が生じたのではないかと考えられるときに、この因果関係が問題になる。

(2)債務不履行責任(民法 415 条 ※5)

不法行為責任は、事故前には何ら法的関係のなかった者の間で成立する責任だが、債務不履 行責任は契約関係を前提に、債務者がその債務 を履行しなかった場合、債権者に対して負う責任である。

講習やツアーに参加するダイバーと 契約を締結しているのは、ショップだったり、そこの代表者なので、債務不履行責任の主体はショップだったり、事業者となる。

ダイビング事故で最も問題となる債務者の義 務は安全配慮義務。
事業者は契約に従い、ダイビング講習やダイビングツアーを実施する義務を負うが、単に講習やツアーを提供すればいい わけではなく、ゲストのダイバーの生命、身体を守り、安全にサービスを提供することが求め られている。このような義務を安全配慮義務という。

事故が発生すると、この安全配慮義務 に反したのではないかということが問題になる。

交通事故の例でいえば、幼稚園や小学校の近 くを走行する場合には、子どもが飛び出してくる予見ができる。そのため、ドライバーは子どもが飛び出してきて衝突する可能性を予見して、その子どもとの衝突を回避するために、スピードを落とすという結果回避義務をとる必要がある。

この予見義務、回避義務を怠り、漫然と走行して交通事故を起こしたとき、責任が発生する。
一方、例えば、高速道路では、通常、歩行者が付近にいることは予見できないので、何らかの事情で人が高速道路に入り込んでしまって事故になると、「予見可能性がない」ということになる。

予見可能性がなければ、結果回避可能性もなくなるので、責任は負わないことになる。
したがって、損害賠償責任が争われる場合には、「予見可能性」と「回避可能性」が重要な問題になってくる。

※5:民法415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができ る。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

相殺過失について

不法行為責任もしくは債務不履行責任が成立すると、事故者に対する損害賠償義務を負う(民 法722条 ※6)。
しかし、事故者にも損害の発生、拡大に関して落ち度が認められる場合、これをまったく無視してすべてガイド側の責任とするのは不公平だ。
そこで損害の公平な分担の観点から、事故者の落ち度を損害賠償額の算定において斟酌する過失相殺(民法418条 ※7)という制度がある。

※6:民法722条(損害賠償の方法及び過失相殺) 被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
※7:民法418条(過失相殺)債務の不履行に関して、債権者に過失があったとき、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

内在的危険などについて

ダイビングを含め、スポーツ事故については内在的危険が問題となる。
スポーツは、参加者が道具を利用したり、自己の身体的能力を活用したりして行うもので、また、より高い目標を目指してチャレンジしていく性質があるため、どうしても怪我などの事故が回避できないことがある。
これを、スポーツにおける「内在的危険」と呼ぶ。

水中という空気のない環境下で、タンク内の高圧空気をレギュレーターという器材を使用して呼吸するダイビング。
一歩間違えると重大な事故になる可能性があるとして、裁判所の判例では、この内在的危険からガイドの注意義務について論じているものが多ある。
この場合、ガイドの注意義務を重くする方向として働くことが一般的だ。

ただ、ダイバーはこの内在的危険を承知のうえでダイビングを行っているともいえる。
自然を相手にするレジャースポーツであるダイビングでは、予想もしない天候や海況の変化などによるアクシデントが生じることも考えられる。
ダイバーが内在的危険を承知のうえでダイビングをしている以上、この内在的危険が現実化したことによる事故については、ダイバーが危険を引き受けているという考えもあるのだ (危険の引受)。