酸素の入手を阻む壁とは

減圧障害をはじめとする、緊急時の酸素吸入の有効性について異論を唱えるダイバーはいないだろう。
実際、世界のダイビングシーンでは、緊急計画に、酸素の装備と使用は当たり前のように組み込まれている。

近年、日本のダイビングシーンにおいても、「医療用酸素の使用に関する必要な知識を習得した上で行われることが望ましい」という前提で、緊急時に限りその使用は認められるようになった。
“必要な知識の習得”の根拠として、DAN JAPANをはじめとする酸素供給講習の整備と普及も進んでいる。

しかし、「どこで酸素を手に入ればいいの?」という問いに、明確に答えることは難しい。
というのも、高気圧酸素を使用する場合、主に「医療ガス」「高圧ガス」の関係法令によって規定されるが、そもそも酸素の使用自体がNGだったレジャーダイビングは想定外だったからだ。

ダイビングの現状に即して運用するためには、日本のガス基準に即した知識の習得とガス業界との連携が必要なうえ、ダイビングの実態と照らし合わせた基準に落とし込む必要もあるだろう。

高気圧酸素を使用するために
知っておきたい日本のガス

※以下、日本のガス業界を代表する一般社団法人 日本産業・医療ガス協会(JIMGA)医療ガスの知識より引用・抜粋します。

■医療ガスと産業ガス
ダイバーが使用する酸素はどっち?

JIMGAでは、産業ガスと医療ガスを並列に扱っているが、医療も産業に含まれることを考えれば、産業ガスの中に医療ガスが含まれるという概念でも間違いではないだろう。

実際、産業ガスと医療ガスは規制を受ける法律が異なるが、“大は小を含む”構造になっている。

ダイバーが使用する酸素は、減圧障害への対処など、患者や患者見込みへの使用目的を考えれば医療用ガスとなる。
※テックダイビングや作業潜水などでの積極的な使用を想定した場合、違う議論がありえるが、今回はあくまで応急処置としての酸素を想定する

【医療ガスとは】
JIS T 7101「医療ガス配管設備」では、患者の治療、診断、予防および手術機器駆動用として使用するガス・混合ガスを「医療ガス」として定義しています。一般社団法人 日本産業・医療ガス協会(以下、「JIMGA」)では、医療機器等の滅菌処理に使われる酸化エチレン滅菌ガスも含めてこれらを「医療ガス」としています。また、これら「医療ガス」のうち、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「医薬品医療機器法」という。)にて医薬品として規定されるガスをGIMGAでは「医療用ガス」と呼びます。

■ダイバーがおさえておきたい
医療ガスの関係法令

つまり、ダイバーが酸素を購入・取り扱うためには、医療施設がそうであるように、高圧ガス保安法と医薬品医療機器法について、正しい知識と取り扱いを取得したという根拠や法的手続きが必要となるだろう。

医療ガスや高圧ガスを扱う業界の既存の講習やプログラムなどに乗ってしまえば簡単にも思えるが、例えば医療現場と異なり、ダイビングでは酸素に限定され、しかも緊急時のみであることや、高圧ガスを扱う業者に比べて極めて少量であることなど、ダイビング業界として最適化したプログラムが必要だろう。

また、ダイビング業界の中でも、ダイビングセンターがダイバーに販売するケース、一ダイバーとしての購入のみなど、区分もしなければならない。
さらに、応急処置ではなく、ダイビングで使用するガスとしての酸素となると目的が異なるのでまったく別の議論となる。

■ダイバーに必要な
高圧ガスと医療ガス

圧縮された空気が入ったシリンダー(タンク)を背負って潜るダイバーにとって、高圧ガスは身近な存在。Cカード講習でもその構造や取扱いについて学ぶ。
特に、コンプレッサーで圧縮空気を製造し、ダイバーに提供するダイビングセンターなどは、高圧ガス保安法関連の知識は必須だ。

一方、医療ガスについては、高圧ガスとは異なる基準や手続きが必要となるうえに、高圧ガスと監督官庁も異なるのでやや複雑。

例えば、日本も含めて、世界的に医療において酸素の識別色は緑だが(実際、病院の酸素送気バルブは緑)、高圧ガス保安法では、酸素を充てんする容器は黒の塗料と定められている。
海外のダイバーが使用する酸素容器が緑色なのに対して、日本では黒色という点に注意が必要だったりする。

海外の酸素キッド

日本では酸素を入れる容器は黒色の塗装

また、前述通り、ダイビングは想定されていないので、その規定はダイビングでの使用想定から離れている。
ダイバーとしては、その規定に合わせにいくか、ダイビング業界として実態に合った規定の提案が必要となる。

例えば、緊急時用に酸素シリンダーを車に積んでダイビングサイトへ車で行く場合、高圧ガスの充填容器等の移動は、そのガス量によって携帯すべき消火設備や資材が異なる。
その区分は、100㎥以上、15㎥以上、15㎥未満だが、ダイビングの酸素シリンダーは0.15㎥程度。
15㎥未満で必要となる「2個以上の車輪止め」や「長さ15m以上のロープ2本」などは、少量のシリンダーに対しては大げさかもしれない。

アクアラングの小型シリンダー「オキシジェンFF-15L」(3.4L/14.7MPa)は、フル充填で0.15㎥弱

まとめ

多くのダイビングサイトで酸素が常備されるようにもなってきているものの、マーケットが小さいダイビングにおいて、酸素を普及させるためにはまだいくつか壁を乗り越える必要がありそうだ。

以前は医療行為である酸素の使用自体がNGとされていたものの、「安全のために必要である」という信念を持ったダイバーたちの尽力により使用が可能となった。
次の課題は、ダイビングの際、酸素が常に側にある環境作り。
特にチャンバーから離れた遠隔地におけるダイビングにおいて、酸素の存在は人命にかかわる重要な存在だ。

★医療ガスの詳細は → こちら