解決の糸口はいろいろな側面からのアプローチがありますが、どんなルールや組織のもと、どういうガバナンスがきく仕組みを形成するかでしょう。絡みああった糸をほぐす作業のようなもので、正解はひとつではありません。現状と課題を踏まえてそれぞれの立場でできることをやっていくしかないでしょう。

ダイビング業界の現状を踏まえたうえで、ダイビング業界が行うべきことを検討します。

〇ガイドのガイドライン作成案
まずは、ガイドの職責の範囲を他業界、判例研究のもと、ガイドドラインを作成、合意形成すべきです。

★山岳ガイドの例:「登山における山岳ガイドの注意義務」より抜粋
ー白馬岳「気象遭難」事件ー 法科大学院准教授 稲垣 悠一
※赤字は筆者によるもの

(3)ガイドが負担する刑法上の注意義務
 未熟な登山者が多いと言われるツアー登山とはいえ、登山自体は登山者自身の力でするものなので、転倒や落石のような個別的な危険に対する注意は各自が負担するのが原則である。一方、ツアー登山という性質上、引率者たる登山ガイドが負担すべき注意義務は、基本的にはツアー契約に従って決められるであろうが、ツアー客のガイドへの依存度など当該ツアーの実態も考慮することになろう。そして注意義務の内容としては、以下の5つが考えられる。まず、(ア)事前調査義務として、登山コース、気象状態、岩質、地形、遭難ルート等について充分な調査を遂げることが挙げられよう。山岳遭難で一番多いのは「道迷い」であり、そうならないよう引率するのは当然の責務である。次に、(イ)登山目的やツアー客の能力や技量に応じた登山計画、各種装備・食糧などの準備・指示義務が挙げられる。(ウ)登山開始直前は、気象条件との関係で登山開始の可否の情勢判断がある。この時点で遭難の蓋然性が高ければ、登山自体を中止すべき場合もあろう。(エ)登山開始後は、その都度の危険(気象条件の悪化、雪崩、鉄砲水など)への臨機応変な注意義務として、気象条件の悪化に伴う避難小屋での待機、登山途中での引き返し、ツエルト等を利用したビバークなど種々の情勢判断がある。さらに、(オ)ツアー客の疲労の程度の確認、飲食によるエネルギー補給の指示、環境に応じた服装、装備の配慮など、ツアー客の能力や技量に応じて適宜配慮する義務が挙げられよう。

〇ショップの安全管理のガイドライン案の検討

ファンダイビングの安全管理ファクター
ファンダイビングというレジャーは、非常に器材依存度が高く、また環境に左右されるアクティビティです。極論すると環境を提供するビジネスです。その依存度の高い器材の本質は生命維持装置と言えるでしょう。非常に多様な環境下で実施される点で登山と比較されますが、常に生命維持装置を使用する、あるいは運用する点で大きく異なり、さらに、サービスを提供する側、またサービスの提供を受ける側、双方の技術、人的資質も、安全管理の上での重要なポイントとなってきます。

つまり、大きく分けて器材、設備、人的資質、環境というファクターをどう組み合わせるかが、安全管理の、ついてはサービス提供者のリスクマネージメントにつながるのです。

ダイビングの安全管理基準の現状
 しかしながら ダイビングサービス業界には、それを統合する組織がなく、したがって提供するサービスについての、器材と設備、人的サービス、環境についての自主基準がありません。サービス提供者の資格としてはダイビングトレーニング機関のインストラクター資格、ダイブマスター資格があり、それなりの倫理規定がありますが、基本的にはある意味で限定された枠組みと条件の中での運用となります。

具体的には、ダイビング講習がその目的であり守備範囲であり、はるかに多様に変化する環境を提供する、現地オペレーションをカバーするものではありません。驚くことに環境を提供する当事者ガイドについては、基本的にトレーニングの裏づけによるガイド資格がないのです。ガイドというファンダイビングの直近の安全管理者であるガイドには統一された、安全管理基準がないのです。これは日本国内、海外でも同じような実情です。

 もちろん、ガイドをインストラクター、ダイブマスターが行なうことは多々ありますが、ファンダイビングという、インストラクションとは異種の営業行為から生じる賠償責任を、インストラクションという限定された営業行為を統括するインストラクター認定団体の保険制度でカバーするのは限界があります。

 器材設備の面でもスタンダードがありません。施設の面ではダイバーの安全に重要な意味を持つ、空気の充填設備(空気の純度)のスタンダード、使用するダイビングシリンダーの安全レベル(耐圧検査など)。これらをコントロールする法整備が不十分です。
多様化するダイビング事業に、これまで以上の安全管理と義務が生じることが予想されます。

また、ダイビングでは楽しみの面でも、安全管理の面でもボートが多様な役割を担いますが、ボートへの確実なエントリー/エクジットに重要なラダー、プラットフォームなどのスタンダードがありません。現実にダイビングの負傷事故の多くはここで起きています。また酸素、あるいはAED、連絡装置といった器材も標準化されていません。(これらが整備されている国もあります)安全備品は備わっていても、それを運用するスタッフの教育も重要です。

このようにダイブセンター、ダイブオペレーターを横断するような、提供サービスの統一基準(これが安全の基盤になります)が世界的にも、国内的にも、ほとんどないのが実情です。作りにくい、作れないというのが、ダイビング業界のエクスキュースです。これが旅行業の各社が集客して、ダイビングというアクティビティを委託するダイビングオペレーターの背景というか、実態です。

安全管理基準のチェックリスト
日本では、沖縄県がダイビングサービスと共同で、非常に具体的なサービス提供の推奨ガイドライン“沖縄でおもいっきりダイビングを楽しんでもらうための安全対策マニュアル2011”を作製しています。これは県内のダイブセンターへの勧奨的なものですが、安全管理に関して、地方自治体が作製した数少ない具体例です。しかし、レイヤーの混在が見られるので整理した運用が重要でしょう。

またダイバー自身の健康度が安全への大きなファクターになりますが、PADIなどのダイビングトレーニング団体は、所属のインストラクターの実施する講習の参加者の健康調査を条件付けています。これに主として使用されているのが、いわゆるRSTC(Recreational Scuba Training Council=リクリエーション・スクーバ・トレーニング評議会=ダイビング団体の評議会)の健康調査票です。

アメリカ起源ですが現在ではヨーロッパ、日本、現実には世界的にこの健康調査票、従って健康基準として使用されています。本来講習参加者のためのものでその健康的なハードルは厳しく、そのまま参加者に当てはめると、例えば、高血圧の人がダイビングリゾートに出かけるたびに医師の診断あるいは許可が必要になります。これでは条件としてはハードルが高すぎます。
 そのような実情を考えると、やはりこれらの雑多な安全基準のレベルラインを参考に独自のダイビングセンターの最低安全条件ミニマム・リクアイアメントを設定する必要があります。同時にダイブセンターがその安全基準をどうクリアーしているかが、ダイブセンターの選択基準となります。その安全基準の主要なファクターとして、以下の項目についての分かりやすいチェックリストが必要になります。

1. スタッフ
2. 設備、器材、ボート
3. 環境の難易度
4. カストマー
5. オペレーション
6. 事故の対応能力

安全管理基準と意義
参考に添付した旅行社のチェック項目は、各国の民力度や倫理レベルなどからすれば、全体としてかなり厳しく見えますが、ダイビングのサービス提供の安全と現在の訴訟社会の現状を考えれば、現実的なチェックポイントです。

特に賠償保険の確認などは、そのダイブセンターのインストラクター、施設レベルなどとも密接にリンクしています。インストラクター保険とダイブセンターの営業行為であるファンダイビング、さらにはボートを使用する場合はボートの業務提供に対する賠償保険が必要になります。この点、十分なチェックが必要になります。

その他、集客時にダイビングアクティビティーをカバーできる、傷害保険の加入が奨励されます。(海外では、DAN加入が必須といなっているリゾートも見受けられます)

※以前、筆者も参画して作成した、別紙旅行社のチェックリスト参照