提言者

加藤大典氏/ SDI TDI ERDI JAPAN 代表

 

Profile かとう・だいすけ氏

大学在学中にインストラクターの資格を取得し、卒業後は大手ダイビングショップで5年間勤務。

2000年に都市型ショップを起業、2016年にダイビングトレーニング団体SDI TDI ERDI日本代表就任。

ダイビング経験8000本。

26年間無事故。

ダイバーやインストラクターの教育とトレーニングに情熱を注いでいる。

夢はシーラカンスと泳ぐこと。

 

テーマ選出の理由

ダイビング事故発生時には、公的機関や民間ボランディアがレスキューや捜索にあたりますが、海外ではERDIという公的機関と民間ダイバーが連携するプログラムを持つ団体が存在しています。

ダイビング事故だけでなく、災害や事件などにおいて、民間ダイバーが役割を担う可能性をさぐるべく、テーマとして選出しました。

 

提言内容

海外には公的機関と民間が連携するERDI プログラムが存在

バリ島の事故当時、公的機関に頼らざるを得ない状況でしたが、海外では、公的機関と民間ダイバーが連携するERDI(エマージェンシー・レスポンス・ダイビング・インターナショナル)という、プログラムが存在します。

今稿では、直接的にバリ島の事故と関連がなくても、ダイビング事故だけでなく、災害や事件などに、民間ダイバーが役割を担う可能性を考えてみたいと思います。

 

何千年にもわたって人類は商業目的、軍事目的、さらには遊びのために波の下の世界に挑んできました。

多くの人がさまざまな目的で水中世界を利用するようになると、誰かの助けが必要な事故が起こるようになりました。

水中の冒険だけなら、水中と水面での対応ができる熟練チームとダイバーだけで対応できました。

しかし、今日では、多様化する緊急事態に対応できるERDIで認定されたエマージェンシー・レスポンス・ダイバーの存在意義が高まっています。

 

エマージェンシー・レスポンス・ダイバーの定義と役割

ERD(エマージェンシー・レスポンス・ダイビング)チームは、基本的に4つの職務を遂行します。

遺体の収容、自動車などの回収、証拠品の収集、記録の整備。

ダイビングチームはこれらの4つの職務のうち1つ、あるいはすべての職務を遂行しますが、ダイビングチームによっては、より高度なトレーニングを積んだ、適切な器材装備のチームに職務を譲って、2つの職務だけを選択することもあります(記録の保存は常に行うことになります)。

 

歴史的にERDチームのダイバーは、もともとはベーシックな認定資格だけを持ち、地域社会に貢献したい意志を持ったボランティアのダイバーたちでした。

残念なことに、このダイバーたちはレクリエーショナルダイビングの認定資格と装備だけで、職務に就いていました。

しかし、レクリエーショナルダイビングのトレーニングコースは水中の世界をゆったりと探検するダイバーのためのものです。

その認定資格は水中でプロフェッショナルとして働くためのものではありません。

さらにレクリエーショナルダイビングのトレーニングは、ここで必要とされるような職務の遂行を目的としたものでないので、レクリエーショナルダイビングの認定資格はERDを行うダイバーの法的な賠償までカバーすることができません。

ERDI のような、広く認知された機関だけが、この目的に合ったトレーニングと資格証明を提供できるのです。

 

エマージェンシー・レスポンス・ダイバーは、活動目的からすれば事実上、水中の犯罪捜査官で
す。

それが警察、消防、緊急対応機関、民間のダイビングチームであれ、どのダイビングにも証拠品の回収などの作業に従事する可能性があります。

犯罪現場の保存、証拠品の捜索と証拠品の収集の作業ルールを厳密に守らねばなりません。

 

すべての遺体収容作業は、司法権を持つ機関、AHJが確立されたガイドライン(SOGs)に従って作業し、犯罪性がないことが明らかになるまでは、問題のある死因によるものと考えなくてはなりません。

移送するにあたっても州、連邦の水域、また共用水源の環境への配慮、移送上の危険にも配慮しなければなりません。

 

ただちに生命を脅かすような水中トラブルには、ERDチームは手を出すべきではありません。

それは地元コマーシャルダイバーに譲ります。

そうすれば、地元の自治体の出費もセーブでき、ダイビングチームとそのメンバーが、けがをしたときの訴訟や労災補償の問題にさらされずにすみます。

 

ERD は、はっきりと異なる2つの活動から成り立っていることに留意することが重要です。

レスキューダイビングとリカバリー(回収)ダイビングです。

ただちにアクションを起こせば、救命の可能性があるインシデントでは、まずレスキューダイバーが一定の時間枠で働きます。

この時間的制限がリカバリーダイバーとは違うところです。

その時間枠は”ゴールデンアワー”と呼ばれ、水中に沈んでいる事故者の生存の機会、1時間の時間枠を指す用語です。

研究では、ある状況下ではこの時間枠内に収容されれば生存の可能性があるとされています。

しかし、事故の状況はそれぞれに違っています。

凍結した水中に沈んだ事故者が数時間後に収容され、回復したケースもあります。

しかし、温かい水中環境では、回復する確率は大きく減少します。

 

このゴールデンアワーは、事故者が水中に沈んだ時間からスタートするのであって、レスキューチームが現場に到着した時間からではありません。

レスキューダイバーは、生命を維持するためのアクションをこの時間枠内でやりとげねばなりません。

しかし、この時間が経過すると、その捜索活動はリカバリーダイビングに変わり、リカバリーダイバーが回収のためのスタンダードを厳密に守って対応することになります。

 

海外でのERDI のプログラム その活動状況とは?

アメリカでは、消防や警察、そして軍もERDIのプログラムを採用しているところが多く、民間との連携が取りやすい環境にあります。

基本ルールは、最初に到着したダイビングチームが現場状況を管轄し、どのダイビングチームが管轄する場合もナショナル・インシデント・マネージメント・システム(全国事故管理システム)、インシデント・コマンド・システム(ICS)の実施規準に従って活動しなければならないルールになっています。

より高度なダイビングチームが到着したときには、権限を委譲することもあります。

 

アメリカで、ERD 活動を管理する団体は1つではありません。

労働安全衛生管理局(Occupational Safety and Health Administration・OSHA)、国立インシデント管理システム(National Incident Management System・NIMS)、全米防火協会 (National Fire Protection Association・NFPA)、さらには環境保護局(Enviromental Protection Agency・EPA)などの公的機関が、ERDのルールや規制にそれぞれに関与します。

これらのスタンダードは、ダイバーやダイビングチームの活動を制限するためではなく、ダイビングチームを守り、無事に帰宅できるようにするためのものです。

 

台湾の航空機墜落事故における過酷を極めた捜索活動

台湾の航空当局などによると、2015年2月4日、午前10時55分(日本時間同11時55分)ごろ、台北市の松山空港から金門島に向かって離陸した復興航空のATR72型の旅客機が同空港付近の河川に墜落しました。

 

同機には、乗員5人、子ども2人を含む乗客53人、の計58人が搭乗。このうち2人が死亡したほか、少なくとも8人が負傷しました。現場での救助活動にERDI のインストラクターが加わり、1人で20数名の命を救ったと聞いています。

 

一方、連日の捜索に参加していた民間ダイバーの1人が、2月11日、低体温が原因と思われる動脈瘤破裂により移送先の病院で死亡してしまいました。

馬総統は遺族に電話して哀悼の意を述べたといいます。

 

台湾では、このような事故の経験から、たまたま現場に居合わせたERDIインストラクターが活躍したこと、亜熱帯の台湾であっても、冬場の捜索活動、そして汚染区域での捜索にはドライスーツが必要不可欠であることを経験し、400名の消防隊員がERDIダイバーとなり、400着のドライスーツが完備されることとなりました。

現在は、台湾では潜水に関わる消防隊員がERDIダイバーになることがスタンダードとなりつつあります。

COLUMN トランスアジア航空235便墜落事故 救助作業

台北市政府消防局は、半水没した機体から乗客を救出するべく、大型クレーンやインフレータブルボートを用い、ダイバー隊も動員した。

しかしながらダイバー隊員たちは濁った川の水や鋭利な残骸などに阻まれ作業は危険を伴い、難航を極めているという。

救助のためクレーンで吊り上げられた機体は、コクピットおよび前方はほぼ全壊だったとされる

 

2月7日時点では、川の濁りが薄まり、水位も下がり、救助活動はしやすくなったため拡充されているという。

増員により578名の動員、金属探知機の使用、人の輪による環状捜索など総力を上げており、新た
に5名の遺体が発見された。

 

2月8日の政府の事故対策本部発表によると、陸海空による絨毯式の総当たり体制で対応している。

新たな捜索範囲は、基隆河の合流先である本川、淡水河およびその河口まで範囲を拡大し、船舶やヘリコプターなどによる目視捜索が中心となっている。

救助の実態は厳しいもので、折からの寒波到来で水温は4℃、これにウェットスーツ装備で横一文字列の歩行捜索、あるいは潜水捜索に当たるため、30分も作業するとすぐ岸に上がってきては暖を取る状態で、また8日の川水の濁りは前日より悪化しており、効率が落ちていた。

台湾は亜熱帯であるため、少なくとも日本の救助隊では一般的である防寒用ドライスーツは配備されておらず、軍の1部隊がわずかに使用しているのみであった。

救助活動の継続に危機感を抱いた警察消防はメディアを通じ緊急支援を呼びかけ、これに対し台湾国内の宗教団体の信者たちおよび一般市民が合計7着のドライスーツを寄贈した。

台北市消防局はこれについて、使用頻度は少ないが将来的には配備を検討したいと述べた。

慣れない冬季の水難救助に対応するため、台北市政府はストーブを追加投入、軍から野戦入浴車を借り受けて配備した。

なお日没後は潜水および入水による捜索は中止されるが、水面および岸辺の捜索は休まず続けられるとのことである。

 

2月9日の捜索も、前日までの問題を払拭できず、難航していた。

装備としてはソナーを新たに投入し、すでに22個の疑わしい造影が確認されており、これはGPSで位置の特定と記録が可能であり、捜索の円滑化が期待されている。

前述の通りの防寒装備の不足により、水中捜索隊員が風邪にかかることが続発しており、南部地方から応援要員を呼ぶことでしのいでいる。

なお捜索隊の小隊長が風邪の疑いで病院へ搬送され、加療中に肺炎発症が判明し、集中治療室へ移送されて治療を受けるという事態に発展した。

 

2月10日の捜索でも不明者の発見に至らず、台北市消防局は今後、潮の満ち引きを考慮しながら建機積載用の平台船を現場へ派遣し、これに高圧放水車を積んで、高圧放水により川底の汚れを洗い流す作業を行うことで、不明者発見のかすかな望みへつながるのではないかと期待しているとのことである。

これは不明者が中々発見に至らない理由が、座席ごとシートベルトに固定されたまま放出されていたり、深い汚泥に埋もれていることなどにあるのではないかとの見立てによる。

 

2月11日の捜索において、同じ座席上にベルトで固定されたままだった2名の遺体が発見され、残るは1人となった。

連日の捜索に参加していた民間ダイバーの一人が、低体温が原因と思われる動脈瘤破裂により搬送先の病院で死亡し、馬総統は遺族に電話して哀悼の意を述べた。

 

連日の捜索で、川のカーブ出口付近である南湖大橋付近へ遺体が流れ着いて集中している経験則から付近を集中捜索した結果の発見であった。

2組4座席が機体から流出し行方不明のままであることから、座席発見が遺体発見につながるものと見て捜索が続けられていたが、2月12日の水中捜索終了間際になって、最後の遺体が発見された。

「トランスアジア航空235便墜落事故」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より
最終更新:2017年1月10日( 火) 12:11 UTC
http://ja.wikipedia.org
※「検索」を「捜索」に変更。その他は原文ママ
※読みやすさを目的として、改行、使用

除染作業中のダイバー

 

 

日本国内の救難救助の現状と、より良い体制づくりへの可能性

日本の公的機関として潜水を伴う活動を、自衛隊、海上保安庁、警察、消防などが行っていますが、それぞれに職務があり、潜水の目的に相違があります。

 

海上保安庁や自衛隊などの潜水士は、非常に過酷なトレーニングを受け、肉体的に優れたダイバーが多いと聞いています。

消防や警察の潜水士は、普段の任務と兼任して行われているため、十分なトレーニングと実施の機会が少ないセミプロというべき立場ではないかと思います。

日本の救難救助(捜索と回収ダイビング)とERDIダイビングの大きな違いを考えてみましょう。

日本では、肉体と精神に由来するトレーニングが多く、それが優れている部分でもあります。

ERDIでは、より器材にバックアップ性を持たせ、汚染面や低水温などに対する対策が仕組みとして作られています。

アメリカのように地域ごとに、どのようなダイバーであっても同じスタンダードに従うベースがあれば、さまざまなチームが関わるミッションでも連携して、無理や無駄を減らし、良い安全管理が行えるからです。

 

日本の消防に関しては、レクリエーショナルのダイビングインストラクターより指導を受けダイバーとなるか、消防内部にダイビングインストラクターを保持し、自己完結的に伝統的な救助方法を行っています。

 

消防では、都会のビルなどでの救助法としてアメリカの消防のノウハウを取り入るなど、近代的になっているところも多くあると聞いています。

まだ前時代的な方法を取り入れている潜水も、新しいERDI のシステムを導入することで、安全面、衛生面ともに隊員たちを守ることにつながり、新しい潜水技術、そして、統一された捜索方法により、各官庁との連携、ボランティアとの連携も行いやすくなると考えています。

 

東日本大震災のときには、官庁と地元、役に立ちたいと考えるボランティアダイバーが集まりました。

ただ、レクリエーショナルダイビングしか経験のないダイバーたちには、リスクも多く、またそのリスクに気づかず活動する人たちと、安全潜水についての知識がない地元の漁師さんたちによる陸上と船上の支援が適切でなく、安全でないことに困ったと聞いています。

そのような大変な状況の中でも、互いに助け合ううちに理解し合い、ボランティアダイバーも実地経験を積んで、より効率よく行えるようにはなったと聞いています。

 

また、いつ天災が起こるのかわからない日本において、潜水に関わることに限定しますが、世界中で実績のある世界最大のパブリックセーフティダイビング指導団体であるERDIのノウハウを広めることが、急務だと思っています。

それにより、共通の安全認識を持つことができるようになり、災害が起きた際に、早い対応ができるようになるのではないかと考えます。

ERDI のノウハウによる共通認識の中、官民一体となり、よりハイレベルな安全管理を良きチームワークのもとで、活動できるようになります。

 

最悪の事態に対応するためには、多くの人員が必要であり、官民ともにトレーニングされたダイバーが必要です。

そのためには定期的なトレーニングが開催できる環境を作り、官庁またはボランティアダイバーがERDIダイバーになる仕組みが必要です。

 

ボランティアにしても、官庁にしても、予算が十分ではありません。災害時、事件などの際に水中で救難救助、捜索と回収を行う尊い活動に対する助成が行われ、公共安全に寄与する、多くのERDIパブリックセーフティダイバーが日本で生まれることが必要だと考えています。

 

 

COLUMN 01 ERDIオペレーションマニュアル
『ERDIエマージェンシー・レスポンス・ダイバー1 オペレーションマニュアル〜安全公務に従事するエマージェンシー・レスポンス・ダイバーに必要な実施手順と実施条件のイントロダクション〜』(発行/エマージェンシー・レスポンス・ダイビング・インターナショナル)は、ERDIの日本への普及に賛同していただいた、プロジェクトセーフダイビングの援助により、日本語版のマニュアルを作成しました。

ERDIとは(マニュアルP09イントロより引用)
地球を薄く包んでいる水域には、目を見はらせ、私たちの心に訴えかける、驚異の環境が広がります。

この水中世界は宝を求め、ミステリーを求めるすべての人にとって、ユニークで多様性に富んだ環境です。

この水の世界は、地球の住民の生命を育むだけでなく、リクリエーションの場であり、経済活動の場でもあります。

多くの人がリクリエーションと楽しみのために、この水中の王国の探検意にでかけていきます。

他の目的で水中世界を訪れる人もいます。

これらの勇敢な人たちは3つのグループに分けることができます。

コマーシャル/軍隊のダイバー、科学研究ダイバーそしてスポーツダイバーです。

この他にも見過ごされがちではあるものの、大きな仕事をするダイバーがいます。

エマージェンシー・レスポンス(緊急即応)ダイバーです。

エマージェンシー・レスポンス・ダイバーはその他のダイバーグループに必要とされるすべての技量の持ち主です。

しかも卓越したダイバーです。

エマージェンシー・レスポンス・ダイビングはダイビング世界のすべてのダイビング訓練を統合したダイビングであるだけでなく、他のいかなるダイビングともまったく違ったダイビングで
す。

エマージェンシー・レスポンス・ダイバーはコマーシャルダイビングや軍隊の水面ガス供給ダイビングのように、コマーシャルダイビング式の結索ができ、引き揚げのテクニックも持っています

科学研究ダイビングの水中考古のように、水中マップを作図し証拠物の回収をします。

スポーツダイビングの基礎的な技術とトレーニングはエマージェンシー・レスポンス・ダイバーの技量の土台になります。

それでもエマージェンシー・レスポンス・ダイビング技術はある側面にすぎません。

エマージェンシー・レスポンス・ダイビングはそれぞれの地域に合ったトレーニングを積み、ダイブプランを立てる、地域ベースのダイビング活動です。

さらにその地域のダイビングチームをアシストするダイビングです。

エマージェンシー・レスポンス・ダイバーは大きな責任をになって活動する十分な知識をもつダイバーでなければなりません。